エロ本は『エロぼん』か『エロほん』か――日常に潜む言葉の問題を考える

下世話な話である。私が小学生の頃、私を含む小学生の悪ガキどもが無残にも捨てられた(広い意味で)芸術的な女性の裸の写った本を私の地域では『エロぼん(エロ本)』と呼んだ。だが、大学生に入ると、実は世間的には『エロほん』の方が優勢らしいことを知った。

私は大学時代、日本語学を専攻していたので、こういったことには多少、真面目に語ることもできるが。さすがに大学を卒業してからは学会の動向も追ってないし、専門書もほとんど読んでいないわけで、もはや知識は錆びまくっている。それに元々の得意分野は文字表記で、文法はからっきしということで専門的すぎる話は墓穴を掘るのでやめておこう。ただ、日本語に詳しくなくてもある程度は理解できることを話そう。

まずは『エロ本』という言葉について語ろう。
『エロ本』という言葉は『エロ』+『本』の二つの単語を組み合わせた『エロ本』という複合語になる。
 複合語になった際に合体した後ろの単語の語頭が濁音になることがある。(例:きょうだい+けんか=きょうだいげんか)これが連濁だ。
 連濁は必ず起きるわけではなく、さまざまな条件によって阻止される。つまり例外が多く現代の日本語に関しては完全に予測できるものではない。だが、『エロ本』は『えろ+ほん』である『マンガ+ほん』は『マンガぼん(漫画本)』、『しょうせつ+ほん』は『しょうせつぼん(小説本)』、『おおがた+ほん』は『おおがたぼん(大型本)』とよむではないか。なら『えろ+ほん』は『えろぼん』になるのが筋じゃ無いだろうか?
 それに『えろぼん』と読まないと下品な感覚――悪ガキどもがいけない事をしている心理になれないじゃないか。『エロほん』は上品すぎる、もしかして、『エロほん』と読むのはエロティックなものを下品なものでは無く上品でオサレなものにするための、男どものスタイリッシュ表現なのだろうか? 謎は深まるばかりである。

一体健康的な青少年及び成人男子のどれくらいが『エロ本』を『えろぼん』もしくは『えろほん』と呼び、色々な意味で助けられているのかを考えると、もう少しちゃんと調査しても良いかもしれない(もしかしたら先行研究あるかも……)。
 下ネタであれど、文化でに日本語である、十分な調査対象である。日本語を関連のレポートを書こうとしている大学生はこういうことを、本気で調べると有名になれるよ。調査中は偏見の目で見られるけどね!
 まあ、この話は答えが出るものでもないので問題定義だけにしておきましょう。

話変わりまして

「食べ終わった食器は冷やしておいて」

 この言葉に対してどう思いますか? 意味が解るもしくは違和感を感じない人は、出身もしくは親のどちらかが埼玉含む北関東方面の人間である事が、おおよそ察せられます。
 別に、食べ終わった食器を冷蔵・冷凍庫に入れろと言っているわけではありません。どういう意味かと言うと、

「食べ終わった食器は(洗うから)つけ置きしておいて」

という意味になります。日常生活に使う語彙故、使う頻度は多い為、出身が違うととんだ勘違いをしてしまうことばです。日本語として理解はできるが含んでいる意味が通じない。面白いんだか悲しいんだか……。これは関東の言葉ですが南側の方でも余り存じ上げない言葉らしいです。大学の同期の千葉県民の友人も意味を聞いて納得した言葉でした。やっぱり、冷蔵庫で冷やすイメージらしい。
 同室の文化でも、カルチャーギャップというのは衝撃が大きいようです。

さらに言いますと埼玉県民なんかは後方の事を『裏』といったりもします。「教室の裏に固まってないで前に出て授業を聞け!」なんてワンシーンが思い浮かびますが、他県の人は違うようで、「教室のどこに裏があるの?」なんて返答があるようです。
 英語のBACKだって後方・背面・裏という複合的な意味ちゃんとあるじゃないですか、それと同じって、気がするんですけど、言葉の感覚って自分の生活に直結しているから、知らない人は違和感バリバリらしい。自分はそうでもないんですけどね。

日常語彙に含むローカル性というのは解ってくると面白いです。友達、恋人、夫婦でも長く生活を共にすると齟齬が発生します。その齟齬や差異を上手に考えることが出来ると他人の理解につながるかもね。そして私は死ぬまで『エロ本』を『えろぼん』と発音するであろう。それではオタッシャデー!!