【書評】チップ・キッド Go: A Kidd's Guide to Graphic Design(洋書)【クリエイター必見】
夏も終わりかかってるので、読書感想文っぽいものでも。
今回紹介する本はチップ・キッド Go: A Kidd's Guide to Graphic Designという一冊。これは、十代に向けた、デザインとは何かという本。デザインの基礎を教えてるんだけど、とても面白い。英語も十代向けということで、それ程難しい言葉も使ってないので、中高で英語の授業を50点前後取れていれば読めるレベル。英語を少し勉強してればわからない言葉を辞書で引けば大半の人がわかる感じ。文章よりも画像がふんだんに使われているので、それだけでも十分いろいろな事を感じ取れる。
日本人にはわかりづらいが、この表紙もアメリカの『止まれ(STOP)』の赤い標識に『進め(GO)』という文字を入れることで、「あれ?」違和感を生み出させ、表紙に目を向けさせるという手法がとられている(日本でも赤で進めとか青で止まれとかやられたら混乱するように)これも国を限定するが、印象的なデザインの一種といえる。
特徴的なのは解説がちゃんとデザイン理論にのっとた説明である事。日本とかだと、例示はするが解説が弱い、もしくは全くないと言った本も多々あるんだけど、これは要点を絞って、そこからさらに伝えたい大切な情報をわかりやすく説明しています。
大まかな概論ですので、あくまでも見せ方の説明についてわかりやすく解説しているようなタイプの本なので、技術論は少なめです。技術について具体的に知りたいかたは、専門書を当たった方がいいかもしれません。
デザインとは何かということを知る点では、最高のきっかけを作ってくれる本の一つじゃないかなと思います。そういう意味ではとても優れていると思います。
作者がどういう人か知りたければTEDのこの動画を見れば何となくつかめるかも。(プレゼンのインパクトを出すためにキャラ作ってますが)
作者のチップ・キッドは大手文芸出版社のKnopfのデザイナーで、洋書のハードカバーとか有名どころをちょくちょくデザインしています(洋書を読む人はかなりの割合で彼のデザインに触れているはず)。それ以外にもコミックの表紙デザインやコミックの原作やったり、色々やっているようですが、個人的には米国版の村上春樹のハードカバー版の表紙デザイナーというイメージです、それ意外のことはあまりよく知らず、ちょっくら調べてみたんですがなかなか濃いです。一応彼の作品集と、彼の装丁の本は私もいくつか持っておりますが。
彼はコミックマニアで、バットマン・フリークの陽気なおっちゃんです。日本にも何度か来て、神保町で見つけた、桑田次郎の六十年代の少年誌マンガ版バットマンを『Bat-Manga!』として復刊させたり。新宿二丁目で見つけた、田亀源五郎のゲイマンガを米国で出版する立役者となったり(彼自身ゲイ)。ちょろりとネットで調べてみるだけでも非常に個性的な人のようです。
本の内容はこんな感じです(最後の章は自分でデザインしてみよう的な内容なので太字にせず)。
いくつか内容をかいつまんでみます。解説は本文の翻訳ではなく、独断と偏見の混じった解説なので間違っている部分もあるかも。
本文に入る前にこんなページがあります。ここら辺はクリエイターは持つべき意識かも知れません。
デザインはあなた自身。でも忘れちゃいけない著作権。著作権を使うことで自分のオリジナルアイディアを守るのはとても大事な事。何故かって? 鍵をかけない自転車が盗まれやすいのと同じ事だから。何かあった時にあなたのアイディアが最初に公開された時の公式記録になる(携帯電話や自転車を無くしたり盗まれたりした時、最後に見た場所がどこか覚えておくことと同じで)。(注:意訳)
全てのモノ(工業製品)は自然にできた物じゃない、誰かがデザインしたものだ。
素材をあえて、大きくしてみるもしくは小さくしてみるの手
本のイメージに合わせて、明るくしたり、逆に暗くして緊張感のあるイメージを作り、次に何が起こるんだろうと読者に想像させる
時によっては、色を抜くことが良い結果になることがある。
全然異なるものを並列に並べ、片方に焦点を当てると視覚的コントラストを作ることが出来る。
同じ "Me(私)" でも使う書体が変われば印象は変わる
言葉のイメージそのままの書体を使うのもいいが、逆に使うと皮肉にもなる。
文字の組み方や、字間の使い方。洋書なので英文のみだが、それでも結構参考になる部分も
内容+形式+書体=グラフィックデザイン(図案)
Literal(内容通り)『The Anagonist』はある作家が友達についての小説を書きます。友人はそれを読み、本当に怒る。この表紙では作家に、青い小人(友人)が押しつぶされるという関係で内容を表現しています。
Suggestive(示唆的)『Wonder』の主人公は遺伝子疾患により生まれつき顔に形態異常がある少年の物語。形態異常を内容通り描くのではなく、ディテールのない顔のイラストを表紙持ってくることで、顔に関係がある話であるということをわからせると共に読者の想像力を膨らませている。
Abstract(抽象的)ここではIntensity(強い力、迫力)というタイトルのディーン・クーンツの小説を三角形のパターンを使うことで激的な印象にしようとしている。
Metaphor(隠喩)あえて、関係のなさそうなものから別のイメージを推測させることを『隠喩(メタファー)』という。ここでは紙ナプキンにくるまれたフォークとナイフというモチーフだけで、一緒にベッドで眠る男と女が類推できる。
同じ意図をもつビジュアルにも、写真、イラスト、漫画、視覚記号(ピクトグラム)など選択肢の幅がある。
こんな感じのことが載っています。2,000円前後で買えるんで試しに買ってみるのもいいんじゃないでしょうか。役に立つかは人に寄りますが、個人的には楽しめました。直接デザインに関わらなくても、何かを作る、他人に見せるという時に持つべき視点みたいなものがこれを読むといくらかわかってくると思います。これを知っているだけでも、説得力やインパクトの出し方みたいなものは向上するんじゃないかな?
追記:日本語版が出るようです http://books.cccmh.co.jp/list/detail/1671/
今回紹介する本はチップ・キッド Go: A Kidd's Guide to Graphic Designという一冊。これは、十代に向けた、デザインとは何かという本。デザインの基礎を教えてるんだけど、とても面白い。英語も十代向けということで、それ程難しい言葉も使ってないので、中高で英語の授業を50点前後取れていれば読めるレベル。英語を少し勉強してればわからない言葉を辞書で引けば大半の人がわかる感じ。文章よりも画像がふんだんに使われているので、それだけでも十分いろいろな事を感じ取れる。
日本人にはわかりづらいが、この表紙もアメリカの『止まれ(STOP)』の赤い標識に『進め(GO)』という文字を入れることで、「あれ?」違和感を生み出させ、表紙に目を向けさせるという手法がとられている(日本でも赤で進めとか青で止まれとかやられたら混乱するように)これも国を限定するが、印象的なデザインの一種といえる。
特徴的なのは解説がちゃんとデザイン理論にのっとた説明である事。日本とかだと、例示はするが解説が弱い、もしくは全くないと言った本も多々あるんだけど、これは要点を絞って、そこからさらに伝えたい大切な情報をわかりやすく説明しています。
大まかな概論ですので、あくまでも見せ方の説明についてわかりやすく解説しているようなタイプの本なので、技術論は少なめです。技術について具体的に知りたいかたは、専門書を当たった方がいいかもしれません。
デザインとは何かということを知る点では、最高のきっかけを作ってくれる本の一つじゃないかなと思います。そういう意味ではとても優れていると思います。
***
作者がどういう人か知りたければTEDのこの動画を見れば何となくつかめるかも。(プレゼンのインパクトを出すためにキャラ作ってますが)
作者のチップ・キッドは大手文芸出版社のKnopfのデザイナーで、洋書のハードカバーとか有名どころをちょくちょくデザインしています(洋書を読む人はかなりの割合で彼のデザインに触れているはず)。それ以外にもコミックの表紙デザインやコミックの原作やったり、色々やっているようですが、個人的には米国版の村上春樹のハードカバー版の表紙デザイナーというイメージです、それ意外のことはあまりよく知らず、ちょっくら調べてみたんですがなかなか濃いです。一応彼の作品集と、彼の装丁の本は私もいくつか持っておりますが。
彼はコミックマニアで、バットマン・フリークの陽気なおっちゃんです。日本にも何度か来て、神保町で見つけた、桑田次郎の六十年代の少年誌マンガ版バットマンを『Bat-Manga!』として復刊させたり。新宿二丁目で見つけた、田亀源五郎のゲイマンガを米国で出版する立役者となったり(彼自身ゲイ)。ちょろりとネットで調べてみるだけでも非常に個性的な人のようです。
本の内容はこんな感じです(最後の章は自分でデザインしてみよう的な内容なので太字にせず)。
- Chapter 1 Form(形式)
- Chapter 2 Typography(文字組み)
- Chapter 3 Content(内容/趣旨)
- Chapter 4 Concept(構想)
- Chapter 5 10 design projects
いくつか内容をかいつまんでみます。解説は本文の翻訳ではなく、独断と偏見の混じった解説なので間違っている部分もあるかも。
本文に入る前にこんなページがあります。ここら辺はクリエイターは持つべき意識かも知れません。
デザインはあなた自身。でも忘れちゃいけない著作権。著作権を使うことで自分のオリジナルアイディアを守るのはとても大事な事。何故かって? 鍵をかけない自転車が盗まれやすいのと同じ事だから。何かあった時にあなたのアイディアが最初に公開された時の公式記録になる(携帯電話や自転車を無くしたり盗まれたりした時、最後に見た場所がどこか覚えておくことと同じで)。(注:意訳)
全てのモノ(工業製品)は自然にできた物じゃない、誰かがデザインしたものだ。
素材をあえて、大きくしてみるもしくは小さくしてみるの手
本のイメージに合わせて、明るくしたり、逆に暗くして緊張感のあるイメージを作り、次に何が起こるんだろうと読者に想像させる
時によっては、色を抜くことが良い結果になることがある。
全然異なるものを並列に並べ、片方に焦点を当てると視覚的コントラストを作ることが出来る。
同じ "Me(私)" でも使う書体が変われば印象は変わる
言葉のイメージそのままの書体を使うのもいいが、逆に使うと皮肉にもなる。
文字の組み方や、字間の使い方。洋書なので英文のみだが、それでも結構参考になる部分も
内容+形式+書体=グラフィックデザイン(図案)
Literal(内容通り)『The Anagonist』はある作家が友達についての小説を書きます。友人はそれを読み、本当に怒る。この表紙では作家に、青い小人(友人)が押しつぶされるという関係で内容を表現しています。
Suggestive(示唆的)『Wonder』の主人公は遺伝子疾患により生まれつき顔に形態異常がある少年の物語。形態異常を内容通り描くのではなく、ディテールのない顔のイラストを表紙持ってくることで、顔に関係がある話であるということをわからせると共に読者の想像力を膨らませている。
Abstract(抽象的)ここではIntensity(強い力、迫力)というタイトルのディーン・クーンツの小説を三角形のパターンを使うことで激的な印象にしようとしている。
Metaphor(隠喩)あえて、関係のなさそうなものから別のイメージを推測させることを『隠喩(メタファー)』という。ここでは紙ナプキンにくるまれたフォークとナイフというモチーフだけで、一緒にベッドで眠る男と女が類推できる。
同じ意図をもつビジュアルにも、写真、イラスト、漫画、視覚記号(ピクトグラム)など選択肢の幅がある。
こんな感じのことが載っています。2,000円前後で買えるんで試しに買ってみるのもいいんじゃないでしょうか。役に立つかは人に寄りますが、個人的には楽しめました。直接デザインに関わらなくても、何かを作る、他人に見せるという時に持つべき視点みたいなものがこれを読むといくらかわかってくると思います。これを知っているだけでも、説得力やインパクトの出し方みたいなものは向上するんじゃないかな?
追記:日本語版が出るようです http://books.cccmh.co.jp/list/detail/1671/