The Smoke 第五話:假面(かめん)の下にある顔は

第五話
假面の下にある顔は
Episode 5: The man behind the mask


1.

夜のパトロール中、十枝舞は、何かに気づいたらしく路肩に車を止めた。車から降りる前に、トレンチコートのポケットから、ジェリービーンズの小さな紙箱を取りだし、何粒か手に取って口に含んだ。
 車を止めた数メートル先では、社会からあぶれて居場所のない、派手な格好をした少年たちが、バットや工具を携え、車上荒らしをこれから始めようかといったところだった。
 ここは地図上の上では日本だが、日本の常識は通用しない。
 ケンカを売ったと思ったら、殺されていた。なんていうことが冗談じゃなく普通にある。
 ケンカを売るのも買うのも命がけ。
 住んでいる者たちのバックグラウンドがそれぞれ違うということは、ルールがそれぞれ違うということだ。両方に理解できるような共通コードのない思いやりは、存在しないも同然だった。
 溜息をつく。
 白い息が漏れる。
「動くな! 物騒なことはやめなさい!」テイザーを向け全員の耳に届くよう声を張り上げるように言った。通じているかもわからないので、
"Freeze! Kiss the ground! Hands on your heads!"と英語も添えたが、出身がわからないので効果があるかはわからない。
 少年たちは怪訝(けげん)な顔をした。カタコトの言葉で何か叫び、そして、すぐさま舞に襲い掛かってきた。最初に襲い掛かってきた少年にテイザーを擊ち込み、身を返して、裏から襲いかかろうとしてきた少年に蹴りを加える。
「ここがガラ空きだぜ!」そう言って、マイナスドライバーを脇腹めがけて刺しにかかってきた。
 しかし、マイナスドライバーは刺さらなかった。
 気付いたら舞の足元に転がっていた
「本当にあなたって、狙ってるんじゃないかって思える位タイミングよく現れるわよね」
仮面の男は口角を上げる。
「説教は後ね。それじゃ、ケリつけるわよ」
 突然現れた仮面の男に、残った少年たちはやけを起こしてナイフを振り回していた。テイザーのカートリッジを装塡(そうてん)して発射するには時間がかかる。
 先に動いたのはスモークのほうだった。
 奇妙な形をした大きな銃の銃口を少年に向け、引鉄を引いた。
 煙幕弾が発射され、少年の腹部に着弾した。
 煙が視界を遮る。
 舞の耳に、鈍い打擊音が聞こえた。そして、少年たちの荒々しい声は何処からも聞こえなくなった。
 一体に煙が充満する頃にはスモークは姿を消していた。
 舞は脱力したようななんとも言えない声で「やれやれ」と言った。車に戻ると、無線で応援のパトカーを呼んだ。

2.

刑事になって、犯罪と事件は日常の仲間入りを果たしたが、マスクの男は完全に予想外だった。
 今でこそ沈静化しているが、彼の活動が有名になればなるほど、後追いが増えた。ありあわせの無謀ともいえる貧弱な装備で、ヒーローの真似事をするものが後を絶たなかった。
 結果は、殺されたり、大怪我をしたりと、最悪と言っても良かった。
 自警活動の流行は、警察にとっては余計な仕事量を増やすだけだった。それでも、この街の犯罪に対しては自警活動の流行は、それなりに犯罪抑止に効果があったのも確かだ。様々な人種が介し汚職にまみれやすい、この極東自治区という地域柄、自警団員―ヴィジランテ―は権力に左右されない点でもこの街と上手く共存していた。

* * *

 自分のデスクで、事務作業をしていると所長から呼び出しを受けた。
 簡単な挨拶とどうでもいい前口上のあと、本題に入った。
「……つまりだ、君が逮捕した加害者たちから過剰防衛との声が出ているんだ」
「それがどうしたんです」その声は冷たく、普段よりも幾分低かった。
「このご時世、どんな凶悪で反社会的性格傾向のある非人道的な犯罪者にも人権は存在する」
「手を出してきたのはあっちからですよ、証拠もちゃんと残っていますし……」
 所長は話しを遮り、「たとえ、事実がそうだとしてもメディアとそれに煽られた市民は許さない」と言った。
 舞は不満そうな表情を見せた。
「君でもわかるだろう? 何事も好き勝手は出来ない。こればかりは納得してもらうほかはない。納得できないようなら、私は君に転職をお勧めしなければならなくなる」
「わかりました……」舞はこれ以上不服を表明しても意味がないと悟ったのか、これ以上は自分から話をするのをやめた。
 舞が諦めたような様子を見せると、うんうん宜しいと言った感じで頷いていた。
「わかってくれればそれでいいんだ。別に君自身を否定しているわけじゃない。君の仕事は称賛に値する。ただ、今は世の中の風向きが悪すぎる」そう言って所長はにやりと笑った。

* * *

「どうだった?」同僚の坂下が話しかけてきた。
「要約すれば、私は上層部にとって『目の上のたんこぶだから、余計な事はするな』ってこと。勝手な事をしすぎて悪目立ちしたみたい。そのつもりはなかったんだけど」
「あらあら、やっちゃったねぇ」そう言って彼女は楽しそうに笑っていた。
「何がおかしいの」
「気づいてないだろうけど、あんた結構図々しいからね。ある面ではすごく優秀だけど、協調性に関してはゼロ。まあ、これは経済用語でいう所のトレードオフの関係だから仕方ないね。結果を出して、事実の力でねじ伏せるのは称賛に値するけど、もうちょっと人のセンシティブや他人の計画性に対して気を使った方がいいよ。やられた方はたまったもんじゃないからね」
「あたしって、そんななの?」
「多かれ少なかれね。無能なくせして、都合のいい時だけ、猫なで声出して集団をイライラさせるような奴よりかはマシだから安心しなよ」
「ショック……」
「あら意外、てっきりわかっててやっているのかと」そう言って、坂下は舞をからかって楽しんでいるようだった。

3.

事件は予告なしに始まった。
 現場に舞が向かうとちょうど、遺体を運び出すところだった。
 現場は嫌な臭いがした。
 焦げた臭いと獣脂(じゅうし)の焦げたような臭い、ガソリンの残り香。そういったものが混じった嫌な臭いだった。
「被害者は自警団員(ヴィジランテ)?」
「みたいですね、まだはっきりとは解りませんが、現場にマスクが転がってました」
「死因は?」
 別の一人が「遺体の損傷が激しいので、検死の結果待ちです」
 溜息をついた。
 警察もヒーローも、当たり前だが、事件が起こってからしか動けない。環境を良くして犯罪を予防しておくこと自体、一般の人から見たら犯罪自体が起こっていないと同義語なのだから。
 そのくせ、事件が起こったら起こったで、犯人はヒントやらサインを出していたと外野がほざく。計画性のある奴はヒントを出すどころか、証拠をどうやって残さないかということにご執心だっていうのに……。
 さらに言えば、突発的な暴力なんかの場合、加害者は何も考えていないのだから。こういうのは自助努力なんかでどうにかなる類の物ではなく、一種の運命の様なものだ。
 正義を理屈で考えれば考える程、こういう不確定な現実にぶち当たる。
「ヒーローごっこしていた奴が返り討ちってところだろう。あごと頭に鈍器で殴られた跡がある。そして証拠隠滅のためにガソリンをかけて火をつけた」
「今の所、目擊者がいないから憶測でしかものを言えないのが辛い所ね」
「何か変わったことがあったら連絡を」

* * *

 翌日。
「おいこれ見たか!」朝一で一人の署員が、新聞を机に置いた。
 持ってきたのは、派手な見出しの踊っているタブロイド紙
「いったい何?」
「いいから見出し読め」
 舞は言われるがままに、机に広げられた一面の見出しと本文の頭に目を通した。

殺害予告!?

「俺がやった!!」ヒーロー襲擊犯語る  文責:〔****〕社会部
先日、本紙編集部にヒーロー殺害犯を名乗る男から匿名の一本の電話が入った。口調は冷静だがどこか気分が高揚しているような様子だった。詳細を尋ねると先日起った、二件の殺人事件を自供し、近いうちに極東自治区西区においてヒーローを一人殺害するとの連絡してきた。
編集部は現時点において未だ、新たな殺人およびの事実は把握していない……

「なにこれ!」
「見ての通りだよ、電話の音声はネットにアップされてる」
「死体は」
「もうあがっている。以前の犯行内容も事実だ。とりあえず、こっちは新聞社に連絡を取ってる」
 舞は親指の爪を嚙(か)んだ。二面三面と、紙面を覗いたが、あとはタブロイド紙特有の芸能ニュースと、裸の女のあられもない写真が大きく載っているだけだった。
「とりあえず、既にしょっぴいたことのある自警団員には連絡入れておきなさい。余計なことしないようにね! 便乗犯が出ることを前提に動け。いいな!」
「警部補、どちらへ?」
「ちょっと野暮用」
 イライラする。なぜかこういう時に限って、スモークのことを思い出してしまう。ネットではすでに、名前の知られている自称ヒーローとヴィジランテのリストが作られ、賭け事まで始まっていた。
 市民に煽るなと言ったところで、効果はないだろう。最悪の事態を考えながら行動するしかない。

4.

市街地中心部から外れた、うらぶれたような場所にその新聞社はあった、舞は編集部を尋ねてみたものの、ロクな情報は教えてくれなかった。それどころか、編集部からは公権力に対する反感がプンプン感じられた。どこだって邪魔されたくないのは同じだ
 何よりもこの弱小新聞社にとっては、数年に一度あるかどうかわからないボーナスが手に入った様なものだ。問い合わせ用の回線はパンクしているようだったし、段取りの悪さと現場の混乱が至る所で見て取れた。ここ数日の売り上げは、かなりのものだろうし、それに関連して起る様々な雑務のせいで、キャパシティ・オーバーを起こして手に負えない状態なのだろう。
 ここから情報を得るのも、時間の無駄に思えた。担当者は不在だったが、どうせ犯人は非通知で電話をかけてきているはずだ。正攻法で追えるのはここまでだった。
 新聞社を後にするとその足で事件現場に向かった。
 そこは、移民向けの集合住宅の周辺だった。移民向けとは言いつつも、いるのは移民よりも、貧乏人ばかりだ。車に回転灯を設置する。ここでは、主張と威嚇(いかく)をしないとろくでなしのカモにされる。自衛をするに越したことはない。
 犯人は捜査を攪乱(かくらん)させるために、この地域を選んでいるのか、それとも住民の憂さ晴らしの発展形と見た方がいいのか、その二つの合わせ技なのだろうか。
ここは環境が悪すぎる。
 穢(けが)れ無き理想と正義感をもってここに訪れたものは、必ず痛い目を見る。堕落してしまった者たちには、それ相応の対処をしないといけないのだ。まともなのは少数、あとは生きるために悪に手を染めて汚れてしまった者、劣悪な環境によるストレスで狂ってしまった者が大半なのが現実だ。
 性善説というのは、所得が高く精神的に満たされていてまともな教育を受けたものの特権だ。
 舞もこの場所に長居をするのをあきらめた、舞の行動に住民たちが目を光らせていた。

5.

極東自治区にヒーローまがいの自警団員(ヴィジランテ)は腐るほど存在している。年端もいかないその男はそう考えていた。何よりも仲間も何人か襲われている。
 この街のヴィジランテには手を焼かされている。社会からあぶれ、不満が溢れているのに、さらに傷口に塩を塗るような追い打ちをかける。
居心地が悪くなるごとに反感が増してくる。
 気に喰わない奴を排除する。
 行動を起こすのは早かった。相手に安心感を与えるために変装することにした。
変装と言ってもバイク用のブルドッグがプリントされたフルフェイスマスクをかぶるだけ。服装は普段使いのライダース・ジャケットを着ているだけ。何かしらの武器があれば他に何もいらなかった。思ったより参入障壁は低かった。あとは、ちょっと善行を積むだけ、それだけで、なんちゃってヒーローの出来上がり。名前なんか、どうでもよかったから、名乗るときはそのままブルドッグマスクと名乗った。
 最初の奴とは、途中まで一緒に行動して、気を許し始めたのを見計らい襲い掛かり、ハンマーで頭をかち割った。
 人を殺す時に沸く僅かな罪悪感はスパイスにしかならない。
 彼にしてみれば積み上げるプロセスさえも快楽の味付けの様なものだった。
 二人目はハンマーは重いし、面倒臭くなったので、マスクを被った野郎を見かけて、一発銃をぶちかました。銃なんてヤクザから流れてきたのが転がっている。武器に困ることはなかったが、簡単に殺すのは面白くない。
 物足りないので、ここらで読まれている下世話な新聞を作っている所に、電話をして自己顕示。おかげ様でこの地区一帯に見かけない顔がうろうろしている。
 さて、誰を殺そうか。

6.

人気(ひとけ)のない倉庫街。
「止まりなさい!!」テイザーを首元に突きつける「こんばんは、ヒーロー。さすがにくるとは期待していなかったんだけど。嬉しい驚きね」
「いい動きだ」
「どれだけあなたを追いかけていると思っているの、動きくらい、ある程度は読めるわよ」
「俺をおびき寄せたのか?」
「ご名答。あなたの情報網は一体どうなっているのかしら。警察の普通は使うことのない重要度の高い緊急回線まで把握してるってのは思いもよらなかったけど」
「どういうつもりだ」
「まあ、落ち着いて。取引しない? 信用するかしないかはあなた次第だけど。今の状況に関しては私たち利害が一致しているはずよ」
「ヴィジランテ殺しの件か」
「そう。原因の一端は貴方にもあるのよ。責任くらい取りなさい。こっちだってアンタと組むのは本意じゃないんだからね」
少しの沈黙のあとスモークは口を開いた。
「一緒に仕事をするのは構わない。ただし行動に関してはこっちは勝手にさせてもらう」
「それは構わない。こっちだって、職務規定から外れている。飽くまでこれは、あなたと私の個人的な関係。それでいいでしょ?」
「ああ」
「なら決まりね」

7.

誰を殺そう。そう思いながら男は意味もなくふらふらしていた。
 最悪、ターゲットが見つからなければ盛り場でたむろってればいい。事件が起こりそうなところではヒーロー気取りが勝手にやってくる。ここはそういう土地柄だ。
 ブルドッグのプリントされたフェイスマスクはポケットに入れてある。
 新聞社にネタを提供したせいかここ数日、見かけない顔が昼夜問わずうろついている。とはいっても、大半はここの空気が合わないのか引き返しているようだが。
 飛んで火にいる夏の虫というべきか無謀な馬鹿もいる。
 今夜も楽しくなりそうだ。

* * *

 荷物置き場に人影がある。ゴミ漁りがやってくるのは良くあることだが、今日のは毛色が違った。
 あれは警察……? おまけに仮面を着けた糞野郎までご一緒ときた。組んでやがるのか?
 携帯電話のカメラで撮影する。ネタになるかはわからないが、新聞社に売っておけば金になるかも知れない。
 今のうちに始末するのが得策だろうか?
 下手に泳がしておくとこっちが不利にしかならない。銃口を向ける。この距離なら反擊できまい。
 男はマスクを被った。
 何故かわからないが頭が冴えてくる。
 もう怖いものは何もない。
 そして、引鉄に手をかけた。

8.

一体こいつは、どこから情報を集めているのだろう?
 私に見せた証拠品は、露骨に殺人を匂わせる様なものだった。
 犯人は資材置き場に捨てられた車のトランクの中を物置にしているらしい。赤いガソリン携行缶やら、血のついた ハンマーやら、それ以外にも素行のよろしくない青少年が持っているようなものであふれていた。
「この持ち主を見つけて、問いただせば何かわかるはずだ」
「確証は?」
「ない。外したとしても、別の容疑で逮捕は出来る」
「あんたねえ……」舞は頭を抱えた「どうしたの」
 スモークは舞を抱きしめた。
 突然のことに、驚き、舞はうろたえた。しかし、同時に鳴った銃声を聞いて我に返った。

9.

ブルドッグマスクは走り出した。確かに銃弾はあの男に当たったはずだ。なのに顔色変えずにぴんぴんしてやがる。
 なんで?
 なんで!?
 なんで!!
 瞬間的に自分の頭が沸騰したみたいに思考が空回りし始める。
 逃げないとやられる。
 あるのは得体の知れない恐怖。
 しかし、自分の目の前に大きな影が立ちはだかった。
「もう逃げられない」目の前の男は呟くように言った。奴はオモチャみたいな見た目の銃の様なものを向けている。
「お前、何者だ」
「スモーク」
 ブルドッグマスクは、全身から汗が引いていくような気がした
 後ろからは「止まりなさい!」と女刑事の叫び声。
 銃を擊つ。そして全速力で走りだした。
 逃げれないとわかっていても。
 煙幕弾が視界を遮る。しかし土地勘があったので、隠れる場所には困らない。じっとして嵐が過ぎ去るのを待てば逃げられるはずだ。

* * *

 煙幕から逃れるようにブルドッグマスクは路地裏に逃げ込んだ。息が荒い。
「一体なんだっていうんだ?」
 息を整え周囲を伺おうとしていると。路地裏の奥から誰かの足音が聞こえた。
「マスクなんかつけて、何してんだ、お前?」派手な格好をした少年たちに囲まれていた。
マスクを脱ぐのを忘れていた。
「こいつ、正義のヒーロー様じゃねぇ?」
 囲まれている。
 ガキどもの笑い声。
 その場から離れようとしたが出口をふさがれた。
 バットやメリケンサック、それ以外にもいろいろな武器を持って威嚇してくる。
「おいおい、ヒーローの癖に逃亡か? 情けねえな。少しは根性ある所を見せてみろよ」
「おい、ちょっと待て、おい!!」男は叫んだ。
 骨の砕けるような音がした。
 今夜もまた仮面を着けたものが殺された。

10.

事件は苦い結末で幕を閉じた。
「これがこの街だ。犯罪は解決することはない、何者かによって繰り返され新たに生み出される」
「そうみたいね」
「君はなぜ、そこまでこの街のために必死になる?」
「あなたが仮面をかぶるのと同じ理由かもね」
 そう言って、スモークの頬に手を添えた。あと少し手を延ばせば、今なら彼の仮面を外すことが出来る。でも外すことはしなかった。
 あの日、裸眼で見た素顔。ぼんやりだけど見えた素顔。
 それは何処か見覚えがあるような顔に思えたが、確信は持てない。
 今、このマスクを外してしまうと、全てが終わってしまうような気がするのだ。だから、私は彼の仮面の下の顔を覗くことはできなかった。
「あなたのやり方は私には理解できない。でもあなたの存在は認めている。この嫌な感じ……解る?」
 それでもマスクの覆われてない口元は、ただ微笑むだけだった。
「ホント、私ってダメね……」クスクスと壊れたおもちゃの様な笑い声が出る。
 私は彼を捕まえる為に罠を仕掛け、彼はそれから逃げる。ただそれだけなのに、奇妙な深みに嵌(はま)っているように思えてくる。
 そして私は、そのよくわからない深みに今も沈んでいるのだ。私のこの感情を何と表現すればいいのだろう……。

第五話:假面の下にある顔は 終