装丁について

今回、GW合わせで同一のプロットから、それぞれの作者が物語を紡いだ小説アンソロジー『あるべき時、あるべき場所で』を編纂しました。

伊崎美悦さんによる上品で美麗な表紙、主筆の私を含め六名の執筆陣(高柳総一郎さん、弥生ひつじさん、志津さん、爆八重樫さん、Q式さん)による上質な物語が展開されております。

同人誌だからこそ出来ることをおもいっきり詰め込んだ作品になっております。是非このゴールデンウィークにはMOZA MOZAのスペースに是非足をお運びください。在庫状況にもよりますが、なるべく多くの手に届くよう遠方の方には自家通販も行う予定です。

頒布情報:
5/1 第二十二回文学フリマ東京 キ‐41 MOZA MOZA
5/5 COMITIA 116 S40a MOZA MOZA

書籍情報:A5サイズ ガンダレ(フランス)表紙 デッケル・エッジ(Deckle Edge:小口側アンカット風製本)

ページ数 220ページ(表紙含む)
頒価 1,500円(イベント価格)



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自分は割と、同人誌作る時装丁を意識する方だと思う。というか、かなり初期の方から、本の形にすることに意識していたと思う。とはいえ、完全にゼロから始めてるから、様々な入稿ミスやデータエラーやら、若気の至りやらの苦渋は舐めているんだけど、それはまた別の話なので、また別の機会に。

というわけで今回は装丁の話。

同人誌で小説を作るということは、本のデザインも一緒に考えなくてはならないということでもある。正直な話、文章だけに特化してるひとなら、公募に出したほうが早い。同人誌を作るというのは、本造りから、編集、宣伝、販売まで全部一人もしくは小グループでやる総合プロジェクトのようなものだ。だからこそどういうものを作りたいのかが大事になって来る。

とはいえ、印刷所のセットパックをつかえば、版型に関して言えば、どうにかなっちゃうと言うか消極的選択で住んじゃうことではあるんだけどね。

本文を作ることだけが小説じゃない。本の形にした時その本はどういう内容に見えるかとか内容が伝わってくるかということも大切だと思っている。作者の意図を伝えないことには手にとって貰える確率は低くなる。だからこそ、その意図を伝える方法を、考えるだけで差別化が出来るわけだ。

印刷所の本文用紙の選び方だって同人小説なら作者の意図が出てくる。自分の場合は、物語に集中してほしいからなるべく軽い用紙を使うようにしている。重い本文用紙を使ったりすると、長時間の読書してれば手が疲れてくるわけだし。

逆に重さを犠牲にしてもずっと大切にして欲しいと思うなら、劣化に強いが重くて硬い上質系の本文用紙を使うといったアプローチだってある。そういったちょっとした考えと言うのは、本というパッケージングした際に効いてくる。最終的には自分が作ったものをどういう形で届けたいのかを考えれば、ある程度の方向性は定まってくると思う。

自分は本を作るときに書体も考えながら文字を組みます。今回は基本的に縦書きにした時、文字を意識することなく、するすると引っかかりなく読めるような癖のないデザインの書体を選びました。下の画像が今回のアンソロジーの本文書体解説です。

フォントだってそのフォントを作ったデザイナーが、同った使い方をされるか見越してデザインされている。明朝体でさえ見出しに向いたフォントや縦書きに向いたフォント、横書きに向いたフォント。古風にデザインしたフォント……等々があるわけで、それを意識するだけで、ある程度綺麗には文字が組めるんだよね。

字間だって、文章の情報量が多いからあえて行間を広げて一文に集中させるというアプローチだってある。逆に文章のつながりを強くしたいから、行間を狭める方法だってあるわけだ。既存の紙、既存のフォント、既存の字間、どこにでもある既存のものだって組み合わせればオリジナリティーが出てくる。

装丁はセンスがどうだとか難しいことじゃなく、本の形にした時、読みやすい、使いやすいかっていうのが上手く言ってれば成功なんだからね。既存のデザインを意識しつつ、どう遊びを加えるかだと思う。自分が作って楽しければそれはそれで成功だ。

今回の装丁は小口折のガンダレ(フランス)表紙に小口側アンカット風装丁の組み合わせです。参考にしたのはペンギン・ブックス社のクオリティー・ペーパーバックレーベルPenguin Classics Deluxe Editionをモデルに装丁してみました。予算とクオリティーの兼ね合いがないわけじゃないけど、なるべく色々な読み方をしてもらいたいし、賞味期限を長くするためにもかっちりしたデザインにしました。下の画像の本よりかはアンカットのガタつきは弱くなるとは思いますが、こういった感じの小口の本にはなる予定です。


現代の製本では、こういったアンカット風装丁は変形裁断扱いなので、ちょっとした特殊加工になってしまうので、幾つかの印刷所に問い合わせて、緑陽社さんが加工可能という御返事をいただきお願いすることにしました。

装丁や版面の魅せ方で劇的に物語が伝わるチカラは変わると自分は思っています。印象というのは料理における香りのようなもので、時に食欲を引きたせたり、味を強化するものだと思っています。自分は読者になるべく寄り添いたい、だからこそ魅力的になるために装丁にも力を入れたい。上手く行かないこともあるし、大半は自己満足ではあるのだけど。