【講座】同人小説の作り方【第二回】
第二回
何を守って、何を崩すか
何を守って、何を崩すか
この講座も、どうにか第二回目です。
同人誌を作るにあたって大切なのはまず『どんな本を作るか』ってことです。特に小説本は文字だけしかありません。一ページの文字組や余白などのページデザイン(版面:はんづら)や表紙を作るなどちょっと、今までは文章だけあればどうにかなったのも、ここではさらに別のスキルが必要になってきます。自分の描いた文章を本の形で表現したいという欲望がなく文章を書ければ十分なら、公募に出した方がいいかもしれません。
以前に比べたらかなり減ってはいるのですが、まだ世の中の同人小説の半数(もしくはそれ以上)はワープロソフトで単純に文字だけ流し込んだだけのものを本にしたものが多いです。ノンブル(ページ番号)を振る、文字も小さめ、行間もギチギチ。自分なんかは勿体ないなと思ってしまいます。
そうなる理由は学生や、非正規でお金がなく、印刷費を浮かせたいとか、ジャンルによってはギチギチに文字を詰めないとボッタクリに思われるだの、DTPソフトを持っていないとか装丁やデザイン、版面にこだわっていないなど、色々あるのですが、自分から言わせてもらえば、たとえDTPソフトがなくても、ワープロソフトでもきれいで読みやすい原稿は作れるよ? と思うわけです。
昔に比べて、印刷費も、DTP環境も良くなっているんだから読みやすい――誰かに読んでもらうための――原稿をつくるべきじゃないかなと思うわけです。今は技術の進歩で、お金さえ出せば商業本以上の本は作れる時代です。逆に商業の本の方が、予算と売り上げの関係で紙で冒険できなくなっている時代です。だったら逆手に取るくらいの気概があったっていいじゃないですか。
■本を作るために意識した方がいいこと
意外と文章同人で意識されていないなと思うのは、最初の一ページ目から本文が始まってしまう本が結構見受けられるという事、一応、本の構成は和書と洋書でちょっとした違いはあるのですがこういうような順番でページは組まれています。
・和書の構成
- 扉(タイトルページ)
- 口絵
- 献辞
- 序文(まえがき、はしがき)
- 凡例(図版目次を次に入れる場合もある)
- 目次
- 図版目次
- 中扉
- 本文
- 付録
- 索引または後書き
- 後書きまたは索引
- 奥付
・洋書の構成太字にしてあるのは、小説本で必要となる最低限の構成要素です。それ以外は省略しても大丈夫な部分です。洋書は参考までに。
I. 前付けII. 本文
- 前扉
- 口絵
- 扉
- 出版履歴、書誌項目、著作権
- 献辞
- 謝辞
- 目次
- 図版目次
- まえがき
- 序文
- 中扉
III. 後付け
- 付録
- あとがき
- 著者注
- 語彙解説
- 参考文献
- 索引
■版面を意識する
あなたの持っている商業本(なるべく文庫本以外)をよく見てください。思っているよりも余白は広く取られていると思います。行間もルビを入れても若干余裕があるくらいには開いています。文字というのはギチギチに詰め込んだり、余白が狭いと可読性が下がるからです。本よいくつかピックアップしてみると分かるのですがある一定の傾向が見受けられると思います。
天(上部)より地(下部)の余白の方が広いとか、ノンブルや柱の本文にはある程度の距離があるとか……。意外とルールに沿って組まれていることがわかります。
今回は自分のサークルの本『真夜中の雨』の版面を参考に、余白についての解説です(上の図を参照していただければ。クリックで拡大)。余白に関してはウィリアムモリスの法則というものがあります。本来は市のための組み方ではあるのですが、西洋組版などでは意識されているルールです。
うちのサークルでは完全に守っているわけではなく、和文と縦組みにしたときに読みやすくなるように調整しています。うちのサークルの本は地の余白はそこまで広く取ってはいません。ノドに対し1.5前後の比率になるように納めています。本によっては天と地は同じ広さにしてあるのもあります。
個人的な意見ですが最低でも一センチは余白をとってほしいと思います(厚さによってはそれ以上)。実際に本を開いてみると分かるのですが、ノド付近は紙を曲げることになるため、そこそこの広さがないと可読性が著しく落ちます。上の図では判読が困難になる部分をグレーにしています。
小口に関しても本を読む際に親指を乗せても本文に被らない位の余白があるとベター。
ついでに今回文庫本を参考から外しているのは、特に最近の文庫本は本の最低限の機能だけを持たせているので、狭いスペースに文字を詰め込んだり、余白を過剰に狭くしたり、行間を狭めたりしているので、参考にするのはお勧めしません(昔のはまだいいです、ただ文字が小さすぎるという難点が)。制約が多すぎて、慣れないうちは重大なエラーを起こしやすいです。
最初のうちは大きめの版面で、色々試してみるといいでしょう。納得のいく版面というのはなかなかできません。基本はトライ・アンド・エラーの繰り返しです。
■本のデザインは物語の雰囲気を作る
文章が上手いからって、小説本は読んでもらえるとは限りません。ただ単純に文字を並べただけというのは、ただそこに文章が存在するだけで、意識的に読もうとしない限り、特別な理由がないと読んでもらえないものです。
良い本のデザインというのはこの本がどんな物語なのか、明るいのか、暗いのか、重いのか、軽いのか……etc. という印象を増幅させることができます。それでも同じように作ったはずなのに違いが出るそれはどういうことなのか。こう考えるといいでしょう。
どんなものにも適材適所はある。コーヒーを飲むのに茶道の茶器は不適切なように、本も同じでデザインからにじみ出る雰囲気というのがあります。それに関しては装丁について話す際にもう少し詳しくやりますが、当たり前のことから雰囲気というのは作られます。
読みやすい版面を作って、書体を選び、表紙をデザインしていくと本の雰囲気というのが出てきます。ちょっとした味付けの違いが劇的な違いを生むのです。次回は本文と書体について語っていこうと思います。