消えゆく『本物』のラムネの話

夏になると、炭酸飲料や酸っぱい飲み物が飲みたくなります。酸味のある飲み物は唾液の分泌を促し、身体が潤うように感じるから、夏に酸味のある飲み物が飲みたくなるそうです。

ワタクシ事ですが最近、懐古主義というかレトロなものにひかれてしまいます。

この間もふと、小学生の頃を思い出し、学校近くの駄菓子屋でとあるラムネを飲んだ事を思い出したのです。埼玉の一部で流通しているだけの。名称はうろ覚えで、フルーツ・ラムネかシャンペン・ラムネ(?)だったと思います。販売元もわかりません。液体の色はライムジュースを限りなく薄めたような薄緑色で、独特の甘みと香りがあるラムネでした。味は昔復刻した復刻版三ツ矢サイダーのような味だったのを覚えています。

飲み口までガラスで、紙で出来たシールで封がされている昔ながらのラムネでした。

もう一度、あのガラスビンのラムネを味わいたいと、その小学校近くの駄菓子屋に足を運んでみたのですが、駄菓子屋はまだ残っていましたが、冷蔵庫にはペットボトルのみ。2000年初頭まではギリギリ残ってたんだけど……。

わが母校の方も数年前に統廃合されてしまったので、子供たちの姿も無く時代の流れを感じました。

さて、今回は夏の風物詩であり、戦前からある日本独自の飲料『ラムネ』についてのお話です。

ラムネと言えば、炭酸飲料であり、特定のメーカーというよりローカルな中小企業によって様々な地域で作られている飲み物である。大本となったのはは19世紀にイギリスからもたらされた炭酸入りのレモネード。今でもレモン・ライムソーダという名称で売られていますから中身は大したものではございません(現在の有名な銘柄は『7up(セブン・アップ)』と『スプライト(Sprite)』だね)。

Lemonadeを無理やり表音すれば "le-moh-neid”(無理やりカタカナに直せばリモネィ(ド)もしくはラムネィ(ド)と聞こえる)当時の日本人が音だけ拾って表記し、最終的にラムネと転訛させた*カタカナ語である
*いわゆるマドロス英語――今のカタカナ英語が出来る前船乗りたちがカタカナで残した英語発音の事。有名どころだと中濱“ジョン”萬次郎の『日米對話捷徑(にちべいたいわしょうけい)』にある表記など。ジョン万次郎が残したものだと米語の影響からか語尾の破裂音 t, d, gが欠落している。ラムネからレモネードのdの音が消えたのも、同じ理由と推測できる。マドロスオランダ語で船乗りの意。)

さた、ラムネの危機というのは中身の事ではありません。中身は高果糖液糖(砂糖もしくはコーンシロップ)とクエン酸と香料で出来た原液+炭酸水を加えればいいわけですから素人でも作れますし問題ないです。ラムネは大半が個人経営の中小企業が作っているので地域によって味の差はありますが……。

問題は特徴的なガラス瓶。コッドネック・ボトル(Codd-neck bottle)というビンです。それが消滅の危機にさらされております。私が本物のラムネと定義するのは完全なガラス製のラムネ瓶に入ったラムネの事を指します。

このビンは1872年イギリスでハイラム・コッド(Hiram Codd)が炭酸飲料を密封する画期的な方法として発明したのが最初です。日本に一気に広まったのは、ビンの特許が切れた1888 年 (明治 21 年) 以降でガラス会社社長の德永玉吉氏が日本で生産を始めてからである。

なおアメリカでは1892 年 に
ウィリアム・ペインター (William Painter)が、王冠でのビンの密封法を確立し、コッドネック・ボトルは段々と姿を消していくことになる。なお、イギリス製のcodd-neck bottleはコレクターの間で高値で取引されているとか(なにせ当時のガキどもがビー玉を取るためにビンを破壊しまくったからだとか。どこの国でも子供のやることはおんなじだ)



そのビンに、消滅の危機が迫っている。ブルガラスのラムネボトル自体の生産は日本では20年以上前に終了しており、ビンを作ろうにも機械自体がすでに無い状態だそうです(日本にあった最後の機械はインドへ輸出されたそうです、その機械も現在現存するかは不明)。

まして、ガラスビンのラムネはリターナブル・ボトル(再利用可能ビン)なので、回収しないことには減る一方なので、個人にビンごと売るわけにもいかず、破損および経年劣化のロスで年々減っているのが現状。だからビン自体が今現存しているのを残すのみ。

さらに噂によるとラムネのリターナブル・ボトルの耐用年数の限度があと十年以内と言われている。

仮に今、フルガラスのラムネ瓶を制作するにしても、ガラス職人が一つ一つ手作りしなければならないそうで、大量生産の工業製品としては作れないそうです。

だから今製造されている、ラムネ瓶は全プラスチック製もしくは、飲み口がプラスチックのモノだけとなってしまいました。
飲み口がプラスチックのラムネ瓶(東洋ガラス株式会社のカタログより)

まあ、この便は使い捨ては出来るので、スーパーやチェーン店などで大量にラムネを売ることが出来るようになったという部分もあるので、否定はできない。

海外などでは、アニメや漫画、日本食ブームの影響からラムネに興味を持つ奴が出てきて、個人輸入なんかをしていたのに目をつけ、日本の飲料メーカーが海外に販売ルートを開拓して、『RAMUNE』(発音もRah-moo-nehでラムネである)として売られている。今の所、売れ行きは上々だそうだ。

実際これが無ければ、現在のラムネの海外進出もなかったわけで。まあ、これも時代の流れなんだろう。

透明感の高いビー玉とビンが触れ合う音。ひんやりとした飲み口。そういったモノが無くなるのは勿体ない。でも現実問題、商売上のコストと様々な兼ね合いで旨味のある商品では無いのでしょう。でもやっぱり、プラスチックじゃ味気ない。

ラムネ自体が安価な飲料なわけで、特注でフルガラス・ボトル作って、金持ち向けの高級ラムネとして売り出すってのも現実的じゃないだろうしね。一本500円までなら自分は金払うけどね。

まだ、ラムネ製造業者ではフルガラス・ボトルでつくっているところはあるので、ビンラムネ自体は金を払えば手に入ります(もちろん容器は要返却)

モノがモノだけに、回収する必要があるので全国発送が出来ず世のソーダ・ドリンカーやラムネ・ドリンカーと呼ばれる人たちは、フルガラス製のラムネを飲むためにラムネ工場がある地域に足をはこぶという苦行を強いられながらも飲みに行くそうだ。

一昔前は何処にでもあったものも、いまでは、苦労して手に入れるものらしい。

話変わって日本以外にもラムネが飲まれている国がある。インドである。


インドの箱詰めされたレモネード。生の果汁を使っているのか濁っている。

過去にイギリスの植民地だったインドでは、その影響からか、まだフルガラスビンのラムネがストリートで売られている。まだビンも作られているのかは不明だがラムネの需要はあるらしい。

日本に残っていたビンの製造機械が送られたのもインドだもしかしたらまだ稼働しているかもしれない。



インドの ストリートで売られているNimbu pani(ニンブ・パーニ=レモン水)やBanta(バンタ)と言われる飲み物。飲み口にレモンを載せるのがインド流?

イギリス本国でははるか昔に無くなってしまった、ラムネがインドやはるか遠くの極東日本で残っているという不思議。ラムネは日本の風土にうまくマッチしたのだろう。ラムネがこれからどうなっていくかはわからないが、夏に郷愁を思い起こさせる飲み物であることには変わらないだろう。

日本でもまだまだ探せば、あなたの近くにフルガラスビンのラムネが置いてあるお店はあると思います。後十年くらいで消えゆく運命ですので、消えゆくものに思いをはせながらラムネを味わうのもいいかもしれません。

私もあと一度くらい、ちゃんとしたビンでラムネが飲みたいなと思うんですけど、なかなか目にする機会も入手する機会もないので機会があれば探しに行こうかなと思います。

フルガラスのラムネ瓶を無くしたくない、無くすわけにはいかないと、制作能力があって新たに製造しよう復活させようと思う方は是非行動してみては? もしかしたらビジネスチャンスかもしれませんよ。

【追記】続きのような記事書きました『続・消えゆくラムネ瓶の話