僕はたいした理由もなく君の手を握る 第十四章

使い魔として契約した以上、俺はコーディリアに魔法少女としての訓練をしなければいけない。魔法の基礎は初等教育で最低限は教えられているはずだが、それに加え、さらに知識を与えそれを運用できるようにしたかった。

専 門的な教育学をやっているわけでは無いから体系的なカリキュラムなんて組むことはできないが、とりあえず自分のやってきたことをなぞりつつ、いらない所は削り必要な事を付け加える形にし、更にいえばコーディリアの得手不得手に合わせ調整しつつ、苦手な事を無理役克服するのではなく得意な事を伸ばす方向で指導をすることに決めた。


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「じゃあ、コーディリア。質問だ。魔法はどんな時に使う?」

「うーん。普通にしていたら何もできない時とか?」

「その何もできない時に魔法を使うとどうなる?」

「不思議な力が起こって、出来ないことが出来るようになる」

「どの不思議な力は、なんにでも使えるかい?」

「うーん……全部、じゃないと思う。魔法を使っても出来ないことはいろいろあると思う」

「たとえば?」

「死んだ人を生き返らしたり、心とか気持ちとかを動かしたり、色々」

 こうやってコーディリアに質問していると、自分が出来損ないの先生のように感じる。とりあえず質問は、彼女の知識の現状把握の為のものだった。俺はこんな状況で一人の少女を魔法少女として育て上げなければならない。おまけに促成栽培

「じゃあ、次の質問だ。魔法はどうやって起こす?」

「難しいことばで書かれた呪文をよんだり、呪文を声に出したり、土の上に呪文を書いたり、お札とかを使ったりすると魔法を唱えられる」

「コーディリア、魔法は使えるかい?」

「ほんの少し」

「わかった。今日はこれでおしまいだ。明日から少しずつ魔法を教えることをしよう」

「はーい」

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「どうだった」

「年相応ってところだな。ただ解答のしかたは大人の言葉を真似するとかじゃなく、自分の感じたことを、自分の知っている言葉を使って付帯的に説明している感じだ。その点は悪くない」

「お前がそういうならそうなんだろうな」

「ただ、俺は専門が呪文学だから、教育とか魔術教授法とかに関しての知識は持ってないから、その点で不安がある」

「こういう時は苦手でもやるしかない。必要に駆られれば大抵の事はどうにかなる。〝本当に〟苦手とか向いてないとかじゃなければね」

「なあ、ミーシャ。今日明日中にマジカルステッキ用意できるか? 最低限のことが出来る安物でいいんだ」

「最低限のことが出来るのは、このご時世安物とは言わない」

「じゃあ言い方を変えよう。ガラクタじゃない奴。用意できるか?」

「探してみよう」

「頼む」


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 明け方、ミハイルは束になった何種類もの新聞と共にマジカルステッキを調達してきた。テーブルの上に新聞と一緒に置く。

「いったいどこで手に入れてきたんだ?」

「内緒。ある所にはあるんだよ。価格のついている物は正当な対価を払えば手に入る」

「そうか」俺はそれ以上深入りすることはしなかった。余計な事を知ろうとするとロクな事にはならない。「なあ、新聞読んでいいか?」

「好きなの取ってくれ。読み終わったら元に戻してくれれば何を読んでも構わない。それよりも、読める奴あるか? 俺の読める言葉の奴しか買ってないぞ」

「幾つか読めそうなのはある。それに全部読めなくてもう要点位はつかめるさ」

「メシはどうする?」

「この身体じゃ、火が近いと干からびそうだから料理は勘弁(かん べん)願いたいな。適当にあるものでこしらえてくれればなんでも食べる」

「なら、ジャガイモでも炒めるよ」

「なんか、余計なことまでやらせて悪いな」

「気にするなって」

 まだ、この時点では、俺たちの周囲にまだ暗い影は、なりを潜めていた。