僕はたいした理由もなく君の手を握る 第二十章

コーディリアと一緒に指定された建物に向かった。そこで簡単なガイダンスを受け、仕事内容とこれから、どこに派遣されるかという事を説明された。ほとんど訓練無しの実戦導入だった。下手な鉄砲数うちゃあたるを地で行く形で、人的コストは二の次のようだった。

 コーディリアは、話が分からないのか退屈そうにしていた。

 ガイダンスが終わると、鴉の姿をした使い魔が、話しかけてきた。

「君もこんな仕事をしているとはね。ミーシャとは何回か会ったけど」

「すみませんがどちら様ですか?」

「ああ、この姿は初めてだよね。チャンディカと言ったらわかるかな、ほら墓地で一緒だった」

「ああ、その節はどうも。この姿でよくわかりましたね」

「雰囲気と、お連れさんでね」とチャンディカは言った。そして、コーディリアの方に近づいて「こんにちは」とあいさつをした。

 コーディリアは下を向いたまま何も言わなかった。恥ずかしいのだろうか?

「すみません恥ずかしがっているみたいで。コーディリア、挨拶は」

 コーディリアは口を開こうともしなかった。

「この歳の子はみんなそんなもんだよ。まあ、何かわからないことがあったり困ったことがあったら相談に乗るよ。それじゃあ」

 チャンディカがいなくなるのを確認すると、コーディリアは顔をあげて

「カルナ」

「ん、どうした?」

「私、あの人嫌い」とぽつりとつぶやいた。

―――

「使い魔っていうのは、その場の判断がすべてをサポートする。基本的には契約者をとの契約が最優先だが、素直に契約者に従ったからっていいわけじゃない。そして、むやみやたらに先回りして準備するのもダメだ。手持ちの知識とあるものでできる事をしろ」チャンディカは俺に、使い魔とはどういうものかを、空いた時間に指導してくれる。

 個人的に俺とチャンディカはウマが合った。コーディリアと一緒の時は、コーディリアに気を使って最低限のコミュニケーションだけに留めておいたが、コーディリアと別行動の時や時間が出来た時など、使い魔としてのレクチャーを受けた。

 後に分かったことなのだが、チャンディカは、俺のいた大学の先輩にあたるという事で、その点でも親近感がわくことになった。教授の話や学問の小難しい話など共通の話題も多かったので、いい話し相手になってくれた。

 教え方も上手く、使い魔の身の振り方なども彼の背中を見て学んだ。

「パワーは出し切るものじゃない。本気になった奴は死ぬ。なんでも完璧を目指すのは避けろ」これがチャンディカの口癖だった。

 チャンディカは、仲良くなってからも人間関係においては、ほとんどの人と深入りしようとはしなかった。傍から見るとそうでもないように見えるが、じっくり話してみると、どこか余所余所しいというか、違和感を覚える。

 外見も、やせ形で神経質そうというのも、更に違和感を加速させてしまう部分ではあった。

 ある日、休憩中にチャンディカと一緒に茶を飲んでいるとチャンディカは俺に、こんな質問をしてきた。

「カルナ。良い使い魔とはどんなものだと思う?」

「良い使い魔ですか? 『良い』という部分に何を置くかでかなり変わりますけど……うーん、私としては個人を尊重するですかね?」

「それもいいかもしれない」とチャンディカはいった。付け加えるように「一番大切なのは、パートナーに情を入れないことだ。別に冷たくしろという訳じゃない。プライベートと仕事は分けろ。それでなくても、この仕事は契約者とパートナーを組むとべったりしてしまう。情がわくと正確な判断力が鈍ったり、強い情を感じるがゆえに突き放し過ぎて暴力的になったり、破滅的になったりする。余計な感情を持ち込むなというのは無理かもしれないが、感情は少ないに越したことはない。後々辛くなる」

 俺はチャンディカが何を言いたいのか今ひとつわからなかった。

「それは経験則からですか?」

「どうだろうな。でもだんだん気づくことはある。人それぞれだけど、すぐ気付くこともあれば、何年もかかってわかるようなこともある。この仕事を確実に続けていれば嫌でも無きかしら、得ることがある」

―――

 数日後、チャンディカと俺たちはそれぞれ、違う仕事と役割を与えられ別れることとなった。俺たちは戦闘地域に送られる。

 与えられた命令は、魔法少女の殺害。

 年端もいかない子供たちの仕事だ。小さな子供は余計な事を考えずに素直に大人の言う事を聞くからだそうだ。

 反吐が出そうだが、拒否はできない。

 仕方ない事とはいえ、いつから魔法は人殺しの道具になってしまったのだろうか。