僕はたいした理由もなく君の手を握る 第二十一章

私はレーニャが倒れたのを見てすぐに、戦闘態勢に入った。心拍数が急激に上がる。

 持っていた呪符を使い、使い魔を吹き飛ばす。そしてマジカルステッキを思いきり振り上げた。

 その後は良く覚えていない。焦燥にも似た精神状態で冷静にはいられなかったのだ。

 気付いた時には使い魔は虫の息だった。死ぬのは時間の問題だった。

「あなた名前は」

「チャンディカ」

「そう」そして私はチャンディカと名乗った使い魔にとどめを刺した。同時に、使い魔の身体はモノと人間の姿に戻っていた。なぜ名前を聞くなんてことをしたのか自分でもわからないが、私はこいつの名前を一生忘れないだろう。

 すぐさまレーニャの方に向かう、周囲は血だまりになっている。血だまりの中に足を踏み入れる。まだ息があるが、呼吸が荒い。

 戦場で何度も見てきた、体に酸素が取り込めていない状態だった。

「レーニャ! レーニャ!」私はレーニャの名前を呼びかける。

「アリサ……」

「しゃべらないで、手当てするから」

「大丈夫、何もしなくていい」

「でも……」

「わかっていたから。前に言ったでしょ。もし私が未来見えたらどうするって。言ったでしょ? 完全じゃないけど大体ずっと前からこうなること、実は知ってたんだ……こうなるのは……運命……だから……」

 レーニャがせき込み始めた。何度も何度も大きな呼吸を繰り返し、息を吸い込もうとしていた。そして、口を開けたまま息が止まった。

 それがエレナの最後だった

 私の目の前にはレーニャだったものが、そこに存在するだけとなった。