僕はたいした理由もなく君の手を握る 第二十五章
「ご家族が来られましたよ。ご挨拶などは……」
「結構、私はもう行きますので」
「よろしいのですか?」
「ええ、私はお別れが済んだし。私はあくまでも他人だから。後、申し訳ないんだけど、これで葬儀代足りるかしら?」私は手持ちのお金の大半を預けた。
「別にあなたがお支払いしなくても……」
「いいのよ。これは私がもしも死んだときの葬儀代用に作っといたお金なの。もうしばらく使う必要もなくなっちゃったから。それに使ったなら、また稼げばいい。」
「左様ですか」
「ええ、だから、ここで失礼させてもらうわ」
そして、葬儀場の人と簡単なあいさつを交わし、私は笑って葬儀所の建物を後にした。
冷たい風が頬を撫でる。
雪の残り何もない硬い大地を歩き出した。
深呼吸をする。しばらくすると今まで張り詰めたものが無くなったせいか、胸のあたりが締め付けられるような感覚を覚えた。
口元を横に引くようにして嗚咽が漏れないように、なんとかくいしばってはみたものの、どうやっても嗚咽が漏れる。声を押し殺すことは出来なかった。
目から涙があふれて止まらなかった。