【同人向け?】覚えておくと楽しい装丁・製本の種類

同人物書きとしてやっていくうちに、自分の作った小説を本としてパッケージングするという行為自体が楽しくなりまして、いつの間にか装丁を意識するようになってから、沼にはまってしまった感があります。不器用なので手製本の方向にはまだいってないですけど、上手い下手は別にして、ブックデザインというものに対して、相当意識するようにはなったと思います。

個人的に菊版で薄めの芯紙つかった背継ぎ表紙のハードカバーなんかを作りたいという野望があるんですが。本気で作ろうとすれば、コスト面でゼロが一つ増えてしまうので貧乏人には夢のまた夢。それ以外にも仮フランス装とかやりたい装丁はあるんだけど、採算が取れないので、まずはサークルの認知度と良い物を作るのが先かなとか、取らぬ狸の何とやらですね。

物理書籍・電子書籍両方のハードコアユーザーなので新刊書籍の紙の匂いが好きという人とは、かなりの確率で仲良くなれると思います。

今回は工業的な製本として大別して、ハードカバー(上製本ペーパーバック(並製本、ソフトカバー)の二種類を主に扱います。(製本のしかたは幾通りもの種類ありますが、それについて話すと書物の歴史や、文字の歴史までにおよびシャレにならないのでご了承)、それでも深く掘り下げれば、何時間でも話せるネタがぎっしり詰まっている物なんです。

ただし、私は印刷所の中の人間でもない只の同人作家なので、間違っていることも多々あるでしょうし、お値段やコストについてもわからないので、詳しいことを知りたかったら印刷所や製本所になどで聞いてください。それ以外にも印刷辞典や、製本図鑑と言った本を買って読む事をお勧めします。今回、例示するのは洋書が多いですが、英語はあまり読めませんw。定期的にブックデザイン考えるうえ、ジャケ買いや装丁買いをしているだけです。

ハードカバー。表紙を固く頑丈なボール紙などで作り、本文を糸綴で綴じたり、強度を持たせるための製本。一部工程は機械化が難しく、手作業になることも。

ペーパーバック(ソフトカバー)本文用紙の背に糊付けして、厚紙の表紙を付けた物。ホチキス綴じ以外の雑誌類、文庫本もソフトカバーの一種。糊付けしただけなので、本としての強度は下がるものの、大量生産、大量消費に向いている。

■ハードカバーについて


・ハードカバーの背
ハードカバーには丸背と角背があります。角背の方は本文を背で固めただけのもの、丸背は本が開きやすいように背に丸みを出し強度を上げたもの一般的に丸背のほうが角背よりも頑丈です。

・上図 丸背と角背



更に丸背は背の開き方によって上図のA, B, Cに分けられます
 A.フレキシブル・バック(柔軟性背)
 B.タイト・バック(硬背)
 C.ホローバック(腔背)

丸背は、手作業なので結構コストがかかってしまいます。角背の方は機械でも製本できるようなので、幾分安いようですが。
背の部分を、背の強度を上げる為別の素材で継ぐのがクオーター・バウンドとハーフバウンドです。普通背の部分はクロス(布)かレザー(革)を使うようです。もちろん紙で継ぐのもあります。



日本だと背継ぎ表紙と呼ぶようです。クオーターバウンドは背だけを継ぐのに対し、ハーフバウンドは見開きにした際の四隅も継ぐようです。個人的にはクオーター・バウンドが好きなので、お金の目途さえつけば、いつか自分の同人誌でやりたいなとは思ったりしますね。
(追記:背継ぎ表紙は日本ではもはや出来る職人さんが少なく、絶滅危惧種だそうです。請け負ってくれる印刷所も限られているようなので、お金のある方はご早めに? 本文だけ印刷所に頼んで最悪自家製本とという手も……)

・ハードカバーの部分の名称

  1. 小口
  2. 見返し
  3. 寒冷紗
  4. 花ぎれ(ヘッドバンド)
  5. 背紙
  6. スピン(しおり紐)
  7. 芯紙
  8. ちり
(細かい説明は面倒なので知りたい人はググってw)

背継ぎのハードカバー。アメリカの文芸書は今でも、このスタイルが多いです。アメリカだとハードカバの値段が最低25$(2500円前後)位からなので結構凝った製本が多い印象。値段とクオリティが比例しまくる国ですね。

クロース装(布張り) 普通のハードカバーは芯紙に色上質紙を巻くだけなんですが、布張りというのもあります左側のはHarvill seckerという出版社の100周年記念本の一つでで村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』の3000部限定版のダストジャケットを外したもの。右側は古本屋で手に入れたThe Folio Societyというブッククラブが制作した『マルタの鷹』の函入りハードカバーです。贅沢な作りです。

図書館のハードカバーで時々ありますよね。最近は芯紙に色上質紙を張るだけが普通ですけど、豪華製本の一つに革を張った革装丁なんかもあります。古い百科事典とかに時々使われてたりします。職人技なのでコストがかかります。

これも洋書ハードカバーなんだけど、ホットメルト(接着剤)でかためただけで、カバーがハードでも、ペーパーバックと変わらない製本です。これはハードカバーの態をなしているか微妙なイギリスの本なんですが、イギリスの製本は、案外雑なものが多い気がします。工業革命によって大量生産、大量消費が始まった国だからでしょうかね?

■仮フランス装

芯紙を入れない厚紙の四方の見返しを織り込んだハードカバー仕上げみたいな製本のことを仮フランス装と言います。新潮クレストブックの製本がこれです。軽い仕上がりで一度やってみたい製本ではあります。東京創元社の単行本なんか見ていると丸背もできるらしい。表紙がハードカバー身と違ってしなるし、軽い感じに仕上がるので個人的には読みやすくて好きです。

本来のフランス装というのは。小口を裁断していない中身を糸で綴じ仮表紙でくるんだもの。愛書家が自分の好みに装丁し直すためのもの。という訳で仮製本のもののことをいいます。日本では色々フランス装がごっちゃになっているので人によってイメージの統一が出来てません。お気を付けあれ。

■ペーパーバック(ソフトカバー)について
・はじめに
まず最初に言っておきます。これはソフトカバーではありません。正しくはダストジャケット(ホコリよけ)と言います。日本語だとこれを含めソフトカバーというのが一般化してしまいましたが、本来は本のホコリを防ぐためのものです。


一昔前、本はこういった函(はこ)入りで売られることも多かったです(特に戦前の日本においては)。今では辞書や学術書、限定版といった特別な本でしか見られなくなりましたが、本を保存するという目的でこういった箱入りの書籍も売られていました。しかし、時代が経つにつれ、大量に本を販売する時代になると、箱が邪魔になり、函入りが少なくなっていきました。しかし函入りで、本自体の汚れや、ホコリをよけていたのが無くなり、剝き出しにして売るとホコリを防ぎきれないので、だんだんとダストジャケットを巻くようになっていきました。だから基本、函入りの本にはジャケットは巻かれないことが多いです(もちろん最近の本は違いますが)。

では、ソフトカバーとはどんな装丁のことを言うのでしょうか?
答えはこういうのです。背を糊(接着剤)などを使って、本文と表紙をくっつけた簡易製本をソフトカバーと言います。ペーパーバック、文庫本、ホチキス止めでない雑誌などがこれに当たります。

分解するとこうなります。これも自分の持っている本なんですが、この本はホットメルトが甘く、読んでいるうちに剝がれてしまったのです。紙と印刷は良かったのですが、中華製本だったので、製本が甘めでした。

個人的にはソフトカバーの中でも、洋書のペーパーバックが好きです。あれは好き嫌いが凄くわかれるんですが、個人的にすぐに黄ばむ質の悪い中質紙にケバケバしい表紙。あのチープ感は限界まで製本を単純化した境地だと思ってしまいますね。

ソフトカバー製本は100年ちょっとくらいしかたっていないまだ新しい製本です。識字率が上がってくると共に、本が知識人だけのものでなくなり、保存よりも、読み捨て前提の合理的な書物の形だと思います。

自分の同人誌を作るときは軽くて厚いコミック紙系の中質紙を多用して、洋書風に仕上げるのがうちのサークルのスタイルです。

その他
・和綴じ
糸で綴じるのが和本です。糸の綴じ幅が均等なのが和本で綴じ幅が2:1:2になると中華風の製本になります。西洋にも糸綴じ文化はありますが、日本とは違う方法で綴じます。

・リング製本

ページが360°開くことの出来る機能的な製本です。あまり見ない形ではあります。

■製本加工について
箔押し(ホットプリント)ホットスタンプ箔を利用して、専用の機械で加圧、加熱によって金属調の文字、絵柄などを非転写物に転写する加工法のことです。メタリック調の文字が押せるので高級感が出ます。同人やっている人だと箔押しに憧れている人結構いますよね。型を作らないといけないので高いですからね。



雁垂(がんだ)れ加工(小口折表紙)。
人印刷の世界ではこれが何故かフランス装だのフランス表紙などと呼ばれております(追記:英語でもFrench Flapという言い方あり、Flapped Paperbackなどの表記も)。フランス製本にも本フランス製本、仮フランス製本などがあり混乱の元となっています。本来のフランス製本は書物を買った人が装幀師に頼んで各々で製本するため。簡易的な表紙で糸綴じしたもので、折(本文の束)が袋とじのように閉じていて、ペーパーナイフで切り開くようになっていた物のことを言います。

これが折。本によって8、16、32、48、64ページと言った4もしくは8の倍数で折られています。何故かというと大判の紙の両面に印刷してそれを折り、天と小口を裁断すると紙の束になる為です。(同人誌印刷の場合は、表と裏の一枚の紙(ペラ)をそろえて接着するペラ丁合が多いです)

裁断されてない折(これは製本ミスによるもの)

天アンカット 仮フランス装では、ペイパーカッターで切った時のような再現としてこういう加工をすることがある。裁断ミスではない。

小口アンカット/デッケル・エッジ(英: Deckle Edge) テモワン(仏 : Témoins)洋書だと小口にフランス装の名残を残すことが多い。(製本機の違いか、プロセスの違いによるものか不明)もう一度言うが裁断ミスではない。これもアンカット風製本の一つラフカットとも。レトロな風合いを出すのにもってこい。デッケル・エッジは『手漉きの紙の荒い縁』と言う意味なので、天地小口どの部分でも不揃いなら使えるようです
 ペーパーバック装ではPenguin Classics Deluxe Editionが、ガンダレ表紙に小口アンカットのダブルパンチです。個人的に同人誌の総集編作るときに真似しようと今から画策しております。
 フランス語のルリユール(製本職人)のサイトを翻訳サイト使って読むと「紙の端が不揃い(テモワン)であることは、それは一枚の手漉きの紙であり工業生産でないことの証明」みたいなことが書いてありました。金持ちのマウンティングの一つとも取れる文面なので本当にそういうことなのかはわかりませんが……。

現代においては普通の本は三方裁断してしまいますので、アンカットの部分を残すのは大変なので、アンカットは手間と言う理由で同人印刷所で頼むと断られたり追加料金取られたりします、そういう本を作っているサークルさんや商業の本を観た時は、読書の利便性ではなく、本というもののデザイン性、芸術性もしくは装飾性を大切にしているんだなと思ってください。また、しおり紐(スピン)をつける事によって天の部分が裁断できなくなるのでアンカットにしてある場合もあります。


エンボス(浮彫)加工押し出し型を使うため、高コストになりやすいが。印刷インクと特殊ニスを組み合わせた疑似エンボスという印刷方法もある。押し出し痕が出来ないため逆に好まれる場合もある。
へこませる場合はデボス加工という。

<追記>
ドイツ製本(German case binding/Bradel binding)背の部分と本の平の部分を別々に作って張り合わせる製本。現代では並製本の平の部分にボール紙を張り合わせて強度を上げる形が一般的。この製本は18世紀のドイツまでさかのぼれ、別名のブラデル製本(Bradel binding)はドイツで働いていたフランス人製本職人Alexis-Pierre Bradel(アレクシス=ピエール・ブラデル)に由来する。当時の革製の上製本は硬く本を開くのが、難しかったため背の部分を柔らかい素材で、平の部分を硬い素材で貼り合わせることで、本を開きやすくするための製本で今の工業的に量産するタイプよりも、ハードカバー寄りの製本だったようです。


コデックス装:糸綴の背中をそのまま見えるように背をくるまないで本を仕立てる仮製本様式で糸綴並製本とも、本が180度開けるのでアートブックなどで使われる製本。

小口染め:本の天・地・小口のいずれかもしくは三方に装飾のために色をつける手法。古くは金粉を使ったものやマーブリングなど種類がある。また、近代における小口染めは装飾だけでなく、ペーパーバックの粗悪な用紙による変色や黄ばみを防止したり誤魔化すために黄色、茶、青といった濃い色を三方に塗ったことに由来するものもある。
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他にも紹介しきれない製本加工はいろいろあります。(コプト製本とかスポットグロス加工とか……)同人やっている人は印刷所に聞いてみたり、自分で調べてみてください。人間が紙に字を書いてまとめた時代から、本は作られてきました。だから歴史の数だけ製本の種類はあります。

本来、本は人の手によってつくられているものですから、時間がかかりますが、ここにある製本・加工は道具さえあればハンドメイドでもできるものです。ごく少部数で構わないなら、自分で製本するのも手です。製本も奥が深いから、こだわるのも程々にしないと破産の一歩手前まで行けますのでご注意を。

こういうのを知っているだけで、本の目利きができるようになります。この本贅沢な造りしてやがるとか、色々コスト削減頑張ってるなというのがわかってくるので。普通の人はほとんど気にしない所に、作っている人の意図は隠されている分、装丁から本を楽しむというのもアリだと思います。マニアックなネタなので言いたいことの半分も言えてないですが、装丁も楽しいよということで、まとまってないですが、ではまた。