【同人誌レビュー】義手に花束を


ハードなエッジながらも、ハートウォーミングな読後感のエンターテイメントSF

『義手に花束を』は文庫本サイズで140ページほどの、いわゆる『短めの長編、もしくは長めの中編』といった趣の本だ。作者の志津さんは、高柳総一郎さんとの合同サークル『夜光虫のランプ』のメンバーで、この間のコミティア文学フリマツイッターの相互フォロワーの縁でご挨拶したりされたりと言った感じでした。文学フリマではThe Smokeの感想を頂き非常に感謝しております。

 物語は近未来――とある都市にある、世界規模で数えても、治安が悪いとされる南東第九地区の繁華街で殺人事件が起こり、翌朝第八地区の花屋ウォーカーのもとに、銀髪の義手の少女が現れるところからストーリーが動き出す。彼女はアンドロイドで、個体識別コードR-E-V(レヴ)と名乗るが……

 小難しくないSF系の話はそこそこツボなので、個人的に結構楽しませてもらいました。内容に関してはストーリーラインが良くまとまっていて、物語はとても追いやすかったです。ぬくろっふさんの表紙イラストも中々素敵で、ジャケットを外して見開きで見ると、とてもステキな感じ。

 文章も悪くなく退廃間のあるハードなイメージはなかなかのもの。ただし、アクションシーンに関しては、それがネックになっている感じはある。アクションにおいては描写より、もう少しテンポ優先の動きのある文章の書き方をすると、文章のメリハリが出てグッと読みやすくなるように思えた。

 他に気になった点としては、本のボリュームに比べてキャラが多いので、キャラの印象が薄くなってしまった印象を受けた(シプさんを除く)。本の中に登場人物一覧などがあれば、また少しは違ったかもしれない。

 この作品は一章『テトテ』、二章『義手に花束を』の二部構成になっています。簡単に目を通して、文章が合わなそうと思っても読むのを止めず、第一章を飛ばして表題でもある第二章から読み進めるのもアリ。独立して読めるので、まず二章を読んで、補足的に一章を楽しむという方法を取っても問題ない作りになっています。

 エンターテイメント的なSF物語が好きな方は楽しめる作品です。自家通販もできる様なので、欲しい方はサークルさんのWEBサイトへどうぞ。

『義手に花束を』
作:志津
表紙:ぬくろっふ
サークル:夜光虫のランプ(http://d-nomads.com)
サイズ:A6(文庫判)
ページ数:142ページ
ジャンル:SF/アクション・スリラー
頒価:700円(イベント価格)