【同人誌レビュー】必殺断罪人


中毒必須。面白くてページをめくる手が止まらない!

高柳総一郎『必殺断罪人』は、小説家になろうで連載して、そこそこヒットているらしい小説を同人誌としてまとめたものだ。高柳総一郎さんには、初めてネット上で感想を頂いたという個人的な「借り」の様なものがあるので、この場で感想兼レビューという形で返させてもらう。個人的にはすごく楽しませてもらいました。

粗筋
たとえ世界が違っても、悪党笑わぬ日とてなし。強きを助け弱きをくじき、流した涙は流れるばかり。誰かに懺悔をしてみても、知らぬ顔の世間様。異世界だろうと変わりません。遺した恨みを一切合切、全て引き受け罪を断つ。詮索不要の闇商売、不況知らずの、断罪人!

 時は現代。組織に捨てられ、無様に命を落とした名も無き殺し屋がいた。その魂は、何の因果か異世界に『英霊』として転生する。彼は巨乳なエルフ族の少女・フィリュネと、かつての英雄の一人『黄金騎士』ソニア卿に出会い、とある『殺し』の依頼を受ける。標的は、かつて世界を王国と魔国の戦争から救った勇者。現帝国神聖皇帝『アケガワケイ』だった。
 そして五年後。ようやく落ち着きを取り戻した帝都イヴァンに、暗躍するものが四人あった。スケコマシの貧乏神父イオ。故郷を焼かれ、家族も失ったエルフ族の少女フィリュネ。異世界より転生した寡黙な殺し屋ソニア。そして、昼行灯の憲兵官吏ドモン。
 彼らは弱き人々の願いと金で復讐を代行し、生きていても仕方の無い悪党を断罪する! 魔法も、チートも、ハーレムも、スーパーパワーも無い。彼らにあるのは理不尽への怒りと厳しき掟、そして己で磨いた『殺し技』のみ!
 ありそうでなかった(?)、異世界正調必殺シリーズ

――表紙見返しより引用

私自身、PCのディスプレイ上で小説を読むのが苦手だったので、この作品が同人誌化されることを首を長くして待っていたというか待ちわびていた。個人的に感じたのは、『必殺仕事人』的な定形をベースにプロットを組んでいるので、物語構成は非常に頑丈でそのおかげでグイグイ読ませる。ある意味で読み物にかなり特化させたスタイルと言えるだろう。展開が気になって仕方がないので、ページをめくる手がどうしても早くなる。「小説家は読者をジャンキーにしろ」という言葉通り、本当に純度の高い読書ドラッグになっている。

ただ、基本構造がしっかりしている分、様々な点で粗さが目立ってしまう。特に設定と世界観。世界設定が、キャラを通してもアクションを通してもあまり伝わってこないので、そこが消化不良を起こしている。

ファンタジーとしてみてしまうと、文化面や物質面と言った点の表現に違和感を覚えてしまう。異世界キャラの思考回路は現代人とあまり変わらない割りに、文化面はファンタジーと中世ヨーロッパがゴタ混ぜで世界観とキャラが所々ちぐはぐな印象。

現代社会と殆んどリンクしていないんじゃ、文化面でも、主人公を除いて登場人物の行動規範は、異世界だからもっと違うものになっているんじゃないかなと思ってしまった。まあ、一種の「ラノベファンタジーあるある」っていう意味で括ってしまえば、ラノベ読者に対する需要は満たしているので問題ないのかな? とも思うんだけど、個人的に違和感だった。

プロットがこれだけしっかりしているんなら、バックグラウンドの完成度を高めるだけでかなり違うと思う。その点はすごい勿体ない。これだけ量をかける筆力はあるんだから、設定や、イメージをどう文章に落とし込んでいくかという所を強化していくといいんじゃないだろうか。

本の作りに関して言えば、本文のポイントが小さいのに加え、本文フォントがプロポーショナル・フォントを使っているので、詰まった感じがして、ちょっと読みづらかった。行間も狭いので凄くギチギチして、もうちょっと行間を広げても良かったんじゃないかなぁ?

あと表紙のdpi(画素数)の粗さが気になった。オリジナルのイラストカット自体が小さいのか、もしくはオリジナルファイルじゃなくて、圧縮したjpegファイルを原稿に使ったのかノイズが出てしまっている。ここら辺は、サークルさんの事情や何やらがあるので、何とも言えないが、素敵なイラストだったので勿体ない。

デジタルデータ加工が難しいときにやる無茶な荒業だが元データをインクジェットでプリントアウトして輪郭とノイズぼかして、600dpiスキャンして350dpiとかに圧縮してそのファイルをトリミング表紙データに使うとかのほうがまだきれいになったかもしれない。)

細かい部分で気になる部分は見受けられたが、それでも設定の甘さに目をつぶるほどの面白さは確かにある。癖になる面白さというか繰り返し読みたくなる謎の中毒性がある。読み物としてはかなり楽しめるので非常にオススメ。魅力的なシリーズだと思う。

『必殺断罪人』
版型:A6(文庫版)
ページ数:240P
印刷:オンデマンド
表紙・キャラクターデザイン:ハラダアキラ
サークル:夜光虫のランプ
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